Message from Takashi Sakai酒井多賀志のメッセージ
メッセージL
日本の美はオルガンによって普遍化される(2005)
オルガンは不器用な楽器です。しかし大変誠実な楽器です。
鍵盤を押さえている間は、いつまでも鳴り続けます。
ピアノのように音が減衰することもなく、同じ幅で鳴り続けるのです。
そうした特性を持つオルガンは、明確で断定的な表現をするのにふさわしい楽器と言われてきました。
オルガンの音そのものに個人的な感情や、細かいニュアンスを期待しても良い成果は得られません。
しかしリズム、ハーモニー、対位法(旋律の絡み合い)、音色の選択などを組み合わせて、個人的な感情や細かいニュアンスを内包する音楽を創造することは可能です。
ストレートに表現できないことに、はがゆさを感じるかもしれませんが、対象を自分の中で見つめ直し、整理して表現することは、より客観的、普遍的表現に近づく方法でもあります。
バッハの音楽は、こうしたオルガンにおける創作特性を前提に作曲されています。
バッハの前奏曲(トッカータ、幻想曲)とフーガは、人の心を表現する曲というよりは、人の心が住める大きな建築物です。
他方コラール作品では、人の心が深い理解と共感をもって表現されています。
1981年より開始した私の作曲活動も、上記の創作特性の上に乗っています。
日本にはヨーロッパには無い、風土に根ざした独特の情感や、細かいニュアンスを取り入れた文化があります。不器用なオルガンでそれを直接表現するのは、確かに容易な事では有りません。
しかしそうであればこそ、オルガン音楽における未開発な部分は、潤沢にあると言えるでしょう。
邦楽器や奄美島唄との共演などの成果も、オルガン音楽の創作に力強い後押しとなっています。
日本の美をオルガンで表現し、それを深め、発展させることは、新しいオルガン音楽の誕生となり、日本人の感性を普遍的次元で語る事になるのです。