Message from Takashi Sakai酒井多賀志のメッセージ

メッセージO

デジタルパイプオルガン・コンサートを開始します(2012)

1974年より毎年自主企画のパイプオルガンコンサートを行ってきましたが、自主企画のコンサートとしては2011年第50回で打ち止めとしました。

一番大きい理由は、2011年に東京純心女子大学を定年退職(特任教授として継続)し、経済的な支えが無くなったという事ですが、もちろん機会があれば、積極的にパイプオルガンの演奏を継続していくつもりです。

一方でデジタルパイプオルガンの普及がオルガン音楽の将来のために必要だという思いがあり、2012年よりデジタルパイプオルガンによる自主企画コンサートを開始します。

その理由をあげてみましょう。

①自然災害が多い日本では、もしもの時の為に、デジタルパイプオルガンは絶対必要。

私は現在でも、吉祥寺カトリック教会のオルガ二ストの一員として務めていますが、1970年頃は、その教会にあった10個ストップの小型パイプオルガンが、自主企画の唯一の発表の場であり、唯一の練習楽器でもありました。

しかし1973年の教会の火事で、発表の場、練習楽器を失ってしまいました。

やむなく、クロダオルガンにクロダトーン(電子楽器)を注文しましたが、完成には一年かかりました。

その間、東京カテドラル、大森めぐみ教会(オルガ二スト馬渕久夫氏の御厚意を通して)、柿の木坂教会(クロダオルガン社長黒田一郎氏の紹介)のクロダトーン、 お弟子さんの高橋泰子さんのクロダトーンをお借りして、毎日別の場所を渡り歩く1年でした。

一週間のうち5日間はクロダトーンを弾いていたのです。

もしあの頃、クロダトーンという電子楽器が無ければ、今日の私はありません。

その頃から私は、地震と火災に見舞われがちな日本では、電子オルガンの発達と普及は絶対に必要だと感じています。

2011年の東北大震災でも多くのオルガンが被災し、修復に多くの時間がかかっています。

東北では中、小型のオルガンが多く、NHKホール、サントリーホール、東京芸術劇場のような、超大型のパイプオルガンはありません。

オルガンは大きくなればなるほど、地震の被害を受けやすいのです。

中、小型のオルガンですら被災するのですから、もし東京で東北大震災と同クラス、あるいはそれ以上の大地震がおきたら、いったいどれだけのオルガンが破壊、又は損傷を被るのかを考えるとぞっとします。

1973年吉祥寺教会の火災を経験している私は、日本におけるパイプオルガンの自然災害にはつねに怯えています。

多くのパイプオルガンが被災した後、しばらくの間、オルガ二ストの日々の営みを守る事が出来るのは電子オルガンかデジタルパイプオルガンです。

②パイプオルガンが無いところでも、オルガン曲を演奏できる。

私は2011年の8月に、宮城県と岩手県を訪問し、デジタルパイプオルガンを持ち込んで、慰問コンサートを行いました。

それが実現出来たのは、かつて奄美島唄とのセッションの為に、デジタルパイプオルガンを奄美に持ち込んだ際、名瀬市に赴任していた江連(えずれ)実牧師と知り合いになっていたからです。

彼は現在、青葉城の近くの北一番町教会に赴任しているので、彼の紹介で被災地で活動している関係者と繋がり、彼の教会を基点にさせていただいて、コンサート活動が出来たのでした。

現地でのコンサートのプログラムは、バッハのトッカータとフーガや「主よ人の望みの喜びよ」等の名曲と、私のオリジナル「故郷」の主題による変奏曲、「アメイジング・グレイス」の主題による変奏曲とフーガ等を中心に、皆で歌っていただくステージも加えて構成しました。

現地の主催者の方から、「この施設におられる方々は、体を動かしたり、感情を発散させる機会が少ないので、よろしくお願いします」と言われていましたので、皆で歌おうのステージを多く設定しました。

そこでは、故郷、赤とんぼ、紅葉、荒城の月(青葉城に土井晩翠の碑がある)等を歌いましたが、皆すごく大きな声で歌って下さって、大変喜んでいただきました。

会衆の歌をしっかり支えるというのは、本来大型のパイプオルガンに課せられた最大の役目であり、醍醐味です。

移動可能なデジタルパイプオルガンで、その醍醐味を発揮出来たことは、大変大きな意味があります。

普段パイプオルガンを演奏出来ない所でも、演奏出来るということは、オルガン音楽を伝える意味でも素晴らしいことだと思います。

また聴衆に近い場所で演奏できるのも、デジタルパイプオルガンの良い点ですし、他の楽器、声楽とのアンサンブルもずっとやりやすくなります。

更に、デジタル技術が発達した現在、デジタルパイプオルガンは、もはや貧弱な楽器ではありません。

名曲や大曲を演奏するのに充分な能力を発揮できる楽器に成長しています

日本の多くの建物は、音響的にパイプオルガンには向いていませんが、デジタルパイプオルガンは音響を調整する事で、そうした建物でも、良く響くパイプオルガン特有の演奏効果を発揮できる状況を作りだす事が出来ます。

デジテルパイプオルガンでのコンサートは、様々な地域に、オルガン音楽を伝え、更にオルガン音楽の新しい分野を切り開けるものだと私自身期待しています。

パイプオルガンとその音楽の発展の為にも、デジタルパイプオルガンの存在と進歩は必要であり、両者の共存が大切だと思います。